研究会

平成25年度 第3回研究会「逓信建築(吉田鉄郎関連資料他)のデジタルアーカイブ化について」

発表者: 吉岡 康浩(株式会社NTTファシリティーズ 技術部スマートFM推進担当主査)
     原田 倫孝(株式会社NTTファシリティーズ総合研究所情報システム技術本部DBソリューション部長)

日時: 2013年12月3日(火)  15:30-18:00

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東京中央郵便局(設計: 吉田鉄郎) 1933年

19世紀後半、日本の郵便や通信を管轄した官庁「逓信省」から、通信事業の部門を担い、電気通信省・電電公社を経て、1992年、株式会社NTTファシリティーズは設立された。現在は、エネルギーやITシステムとともに、ビルや建物の設計から維持管理まで一貫した事業を行っている。ここで資料整理からデジタル・アーカイブ化に至るまで関わった2人が、発表を行った。
同社には、逓信省の時代から現在まで引き継がれてきた、逓信建築*資料があり、図面、写真、文書、原稿、手紙、動画、証書類等多岐に渡る。これらの資料は、当時建築に関わった方々の高齢化による寄贈案件の増加、NTT東日本関東病院の改築を契機とした資料整理の取組強化、逓信建築の先駆者・吉田鉄郎(1894-1956年)関係の大量の資料を入手したことなどによって、近年増加傾向にあった。そして、現物資料の劣化への危機感が、デジタル・アーカイブ化を促進した。
このうち、デジタル・アーカイブ化の手順について、吉田鉄郎関係の資料を例に、話を進めた。まず、大まかなボリュームを把握してサンプル調査を進め、出版できるかどうかを視野に入れ資料整理を進行した。資料内容を分類した後、資料内容の構成を常に考え、デジタル化を開始した。例えば建築図面のデジタル化では、図面の建築史的な位置づけを勘案しながらスキャンの解像度を決めたほか、どのような細目の情報を取るかなども検討した。この資料整理と並行して、もともと作られていた社内向けの逓信建築アーカイブスの改訂を進めた。建築家達の若い頃のポートレイトを採用したのは、この資料類が、若い世代に引き継がれることを期待し、時代は異なるが同世代の建築技術者達に共感を持ってもらうことが重要だと考えたからである。この方針に沿って、作品の履歴やディテール、交流関係などの情報を整えていった。
最後に、吉田と建築家ブルーノ・タウト(1880-1938年)との交流について、戦時色強まる日本とドイツの社会情勢を背景とした手紙や日記から分かったことを、貴重なスライドを交えつつ、発表した。タウトは、1933年に来日し、京都の桂離宮を世界に知らしめた人物として有名である。吉田は、タウトと流暢なドイツ語で語り、建材の話をしたり、時に深い心情をも語り合ったことが分かった。吉田にとってタウトは、建築に大きな影響を与えた人物として重要であるということが、アーカイブ化を通じて、浮き彫りになった。

*逓信建築(ていしん・けんちく)とは、郵便・電信・電話・電気事業の局舎等の施設を逓信省営繕課の技師たち、例えば岩元禄、山田守、吉田鉄郎らが設計した、機能主義、合理主義に基づいた実在の建築物を指す。