研究概要
私立大学戦略的研究基盤形成支援事業
「日本近世における文字印刷文化の総合的研究」
武蔵野美術大学造形研究センター研究プロジェクト「日本近世における文字印刷文化の総合的研究」は、2014 年度に文部科学省より「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の採択を受け、その後 5 年間にわたり、近世日本の木版印刷による文字印刷文化を見つめ直すために、様々な研究を進めてきた。その完成年度にあたる 2018 年には、武蔵野美術大学美術館・図書館にて展覧会「和語表記による和様刊本の源流」を開催し、その研究成果を広く一般に公開した。
近世日本における木版印刷資料は、これまで書誌学的方法により研究されてきた。本研究プロジェクトではそれを現在のタイプフェイスおよびタイポグラフィ・デザインや、造本・装訂デザインをめぐる造形学的見地から捉え直し、その文字形象や造本デザインについて総合的な研究を進めることを目的とした。研究は主に以下の四つの柱を軸に行なった。
日本近世の木版印刷資料の造形学的分析
わが国における近世の出版史を顧みると、初期に少数の金属活字が存在するものの、木活字本や整版本などの木版印刷技術が大きな発展を遂げ、世界でも例を見ない出版文化を形成した。本研究では、近世日本の木版印刷資料の中から「和語表記による和様刊本の源流」という研究テーマに沿った刊本の調査を進めるとともに、とりわけ重要な書物として、浄土真宗の第八代宗主蓮如上人が開板した『三帖和讃』と、角倉素庵らによって刊行されたとされる「嵯峨本謡本」を位置付け、それらを造形学的に研究するための「復元」(再制作)を行なった。復元にあたっては、京都の職人に協力を仰ぎ、これまで解明されてこなかった『三帖和讃』と「嵯峨本謡本」の制作の背景を探った。
高速類似画像検索技術を用いたタイプフェイスおよびタイポグラフィ・デザインの解析
本研究では、一部の専門家を除き読むことが困難となっている日本近世の刊本に対し、日立製作所の高速類似画像検索技術「Enra Enra」を用いた新たなシステム開発を行なうことで、それらの文字形象の比較研究や文字の形態解析に役立てる可能性を探った。
国際比較研究
日本近世における木版印刷資料を、自国の印刷史のなかのみで捉えるのではなく、東アジアの漢字文化圏との比較考察により、相互の類似点や差異の分析が可能となった。わが国における職人の技術の研究と中国と韓国における伝統的印刷技術の調査を通して、日本近世の木版印刷文化の特質を明らかにすることを目指した。
文字印刷文化の総合的研究
タイポグラフィ・デザイン、グラフィック・デザイン、日本近世美術史、日本近世文学、日本画、版画等を専門とする研究者の共同研究により、日本近世における木版印刷資料を学際的かつ総合的な視点から捉え直すことを試みた。また、国文学や能楽研究等を専門とする学外の機関にも協力を仰ぎ、多角的な視点から研究に努めた。
本研究プロジェクトは、 上記四つの研究アプローチから、 日本近世における文字印刷文化の総合的研究を行なった。