研究会

平成25年度 第2回研究会「戦後モダニズム建築の評価と保存―東海大学湘南キャンパスなど」

発表者: 渡邉 研司(東海大学 工学部 建築学科 教授)
     大宮司 勝弘(東京家政学院大学 現代家政学科 助教)

日時: 2013年10月15日(火) 16:30-18:30

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東海大学湘南校舎1号館(設計: 山田守 1963年)

(1)近代建築の保存と資料化—DOCOMOMOの取り組み
発表者: 渡邉 研司

発表者は、大学・大学院を通じて建築史を研究し、その後本学と縁の深い芦原建築設計研究所へ入所したという経歴を持つ。その後、英国への留学を経て、帰国後に開始したDOCOMOMO(Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhoods of Modern Movement)の活動について、発表を行った。
DOCOMOMOは、20世紀前半の建築文化の消滅への危機感から立ち上がった団体である。近代建築の保存に関する活動を行っており、会報など出版物の発行、セミナーや展覧会等を行っている。後者の例として、「文化遺産としてのモダニズム建築展 DOCOMOMO20選」(神奈川県立近代美術館、2000年)、「文化遺産としてのモダニズム建築 DOCOMOMO 100選展」(パナソニック 汐留ミュージアム、2005年)の開催がある。
活動の中で重要なのは、保存をするための評価基準や年代などの枠組みの決定である。また「Documentation of architecture」つまり「Identification of architecture」ということも重要で、その建築がどういうものかを示す、ドローイング、ドキュメント、スケッチ、フォトグラフ等整理をし、またそのフォーマットを整備する必要がある。
最後に、DOCOMOMOのケーススタディーとして、いくつかの建築を紹介した。東京中央郵便局(東京)や国際文化会館(東京)をはじめ、世界遺産に選ばれた近代建築の例として、シドニー・オペラハウス(Sydney Opera Houseオーストラリア)、大学の例として、メキシコ国立自治大学(Universidad Nacional Autonoma de Mexicoメキシコ)、西安建築科技大学(Xi’an University of Architecture and Technology中国)などを例示した。また保存事例のコンペティションも行っており、なかでも八幡浜市立日土小学校(愛媛)の保存再生は、重要文化財選定へともつながったという点で重要であった。


(2)建築家・山田 守と東海大学湘南校舎キャンパス計画について
発表者:大宮司 勝弘

発表者は、東海大学・大学院を修了後、東京家政学院大学の助手を経て、同大助教に着任。2006年、建築家・山田 守(1894-1966年)の設計事務所の資料が建築学会に譲渡されることが決まり、これを契機に開催されることになった展覧会の準備に関わったことから山田 守研究を開始した。今回は、山田の経歴とともに、彼が手掛け、そして発表者自身の出身校でもある、東海大学のキャンパスについて、発表を行った。
山田は、岐阜県に生まれ、東京帝国大学工学部建築学科に入学。4年生の時には、建築は芸術であるという考えに基づき、石本喜久治、堀口捨己らとともに分離派建築会を立ち上げた。卒業後は、当時建築家の花形であった逓信省の技官となって活躍した。現存する山田の建築で最も古いのは、1924年の門司郵便局電話分室(現・NTT門司電気通信レトロ館)で、分離派の金字塔といわれた1925年の東京中央電信局(現存しない)は繰り返すパラボラアーチが印象的な建物である。しかし、1929年の欧米視察での、ワルター・グロピウス(1883-1969年)、ル・コルビュジエ(1887-1965年)ら当時最先端を行く建築家との出会いを通じて、作風は、装飾のない、モダンなインターナショナルスタイルに変化していった。その後は、逓信協会賞を受賞した東京逓信病院(1937年)、東京厚生年金病院(1953年)、大阪厚生年金病院(1954年)など多くの病院建築のほか、DOCOMOMO100選にも選ばれた長沢浄水場(1957年)、山田邸(1959年)、日本武道館(1964年)、京都タワービル(同年)などを手掛けた。山田が生涯で設計した建物は、おそらく300を超えるという。
そして1963年、山田の手によって、小田急線の東海大学前駅から徒歩15分の所に、広大な敷地を有する東海大学湘南キャンパスの校舎建設が開始された。着工当初から8年間とかなりの急ピッチで建築計画が実行され、山田の死後も進められた。このキャンパスでは、北側に大きな教室群、南側に体育館と工学実験棟群が並び、真ん中にはグラウンドを配置、そしてそこを南北に大通りが突き抜け、軸線を形成している。このキャンパスに特徴的なのは、山田の建築家としての個性が発揮された建物群である。例えば、建物全体のY字型をした1号館は東京厚生年金病院に、スロープのある研究実験棟は東京逓信病院につながる造形である。東海大学湘南キャンパスは、曲線を用いた印象的な建物を多く残した山田の代表作といえるだろう。